特許庁委託
平成
18
年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業
インドにおける知的財産保護制度
及び
その運用状況に関する調査研究報告書
平成
19
年
3
月
社団法人
日本国際知的財産保護協会
はじめに
特許庁委託の平成
18
年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業は、主要国の産業財
産権の現状と動向を把握し、わが国の望ましい制度の構築に役立てるとともに、主要国の
制度・運用に対する我が国産業界の意向を把握した上で望ましい制度を実現していくこと
を目的としている。この「インドにおける知的財産保護制度およびその運用状況に関する
調査研究」は同事業の一環である。
インドは最近特に急激な経済発展を成し遂げており、
我が国としても今後の事業展開先
として有望な位置付けにあるため、同国における知的財産の適正な保護は、我が国産業界
が同国で投資活動を円滑に行っていく上での重要な要素である。ここ
10
年で、インドの
知的財産保護制度は、数度にわたり改正が行われており、特に特許制度に関しては、
2005
年の特許法改正により医薬品発明等への物質特許の付与が導入された等、多くの点につい
て改正が行われているが、これらの改正に関する評価や実際の運用についての調査が十分
になされているとは言えない。
本調査研究は、
こうしたインドの知的財産保護制度及びその運用状況に関して最新のデ
ータに基づく分析・調査研究を行い、その背景にある政策意図等を明らかにし、今後の日
印二国間協議等に活用されるだけでなく、わが国の企業がインドへ投資する際の判断の一
助となることを目的とする。
最後に、本調査研究報告書執筆にあたり、ご協力いただいたインド特許意匠商標総局の
ニューデリー支局とコルカタ支局、インドの法律事務所の方々、及びアンケートにご回答
いただいた日本企業に心からお礼を申し上げたい。
平成
19
年
3
月
社団法人
日本国際知的財産保護協会
(AIPPI
・
JAPAN)
国際法制研究室
<目
次>
はじめに
目
次
1.インド知的財産関連法改正について
1−1特許
(1) 1999
年以降の特許法改正経緯
---
1
(2) 1999
年特許
(
改正
)
法について
---
2
(3) 2002
年特許
(
改正
)
法について
---
2
(4) 2005
年特許
(
改正
)
法について
---
2
(5) 2005
年特許
(
改正
)
法における主な改正事項
---
3
①第
2
条
(1)(ja)
進歩性(
inventive step
)
---
3
②第
2
条
(1)(ta)
医薬物質(
pharmaceutical substance
)
---
4
③第
3
条発明でないもの
(d)
への「新規な形態の単なる発見」の追加
「単なる新規用途
(mere new use)
」から「新規用途
(new use)
」への変更
-
4
④第
3
条発明でないもの
(k)
ハードウェアと組み合わされたコンピュー
タプログラムの削除
---
6
⑤第
5
条の廃止
物質特許の導入
---
6
⑥第
9
条
完全明細書の提出期限
---
7
⑦第
11A
条
早期出願公開、出願公開日に遡った権利付与
---
8
⑧第
11B
条
審査請求期限
---
8
⑨第
21
条
アクセプタンス期間
---
9
⑩第
25
条
異議申立
---
11
⑪第
31
条
新規性喪失の例外規定
---
11
⑫第
39
条
インド居住者のインドへの先行出願
---
12
⑬第
92A
条
一定の例外状況下における特許医薬品の輸出に関する強制
ライセンス
---
13
⑭第
107A
条
侵害とみなされない一定の行為
---
14
1−2意匠
(1) 1999
年以降の意匠改正について
---
15
(2)
現行意匠法における主な改正事項
---
15
①第
2
条
(d)
意匠の定義の変更
---
15
②第
4
条
新規性(絶対的新規性)
---
15
③ロカルノ協定の国際分類の採用
---
16
④第
11
条
(1)
最初の存続期間の拡大
---
16
1−3商標
(1) 1999
年以降の商標改正について
---
19
(2)
現行商標法における主な改正事項
---
20
①第
2
条
(1)(zb)
役務商標制度の導入
---
20
②第
61
∼
68
条
団体商標制度の導入
---
20
③第
18
条
A
部
B
部登録の廃止と一出願多区分制の導入
---
21
④第
2
条
(1)(m)
立体標章と色彩の組合せからなる標章の保護対象化
---
23
⑤第
2
条
(1)(zg)
周知商標の保護
---
23
⑥第
25
条
最初の保護期間および更新期間の変更
---
26
⑦防護商標制度
(1958
年商標法第
47
条
)
の廃止
---
27
⑧第
101
∼
121
条
侵害に関する規定の強化
---
29
⑨第
83
条∼
100
条
知的財産権審判部の設置
---
31
2.インドの知的財産制度と運用状況
2−1手続関係
(1)
情報の公開方法
---
34
(2)
各知財当局への提出書類に対する公証要求の有無
---
37
(3)
包括委任状制度の有無
---
40
(4)
出願日認定要件
---
41
2−2特許
(1)
特許存続期間
---
47
(2)
メールボックス出願された発明の出願公開制度
---
48
(3)
出願からの登録までの期間
---
49
(4)
特許の保護範囲
---
51
(5)
出願の単一性
---
53
(6)
分割出願の要件
---
55
(7)
情報提供制度
---
56
(8)
新規性阻却事由
---
56
(9)
異議・審判制度
---
58
(10)
特許取消制度
---
62
(11)
訂正審判制度の有無
---
63
(12)
審判請求時の補正の可否
---
64
(13)
先使用権の規定の有無
---
65
(14)
故意でない侵害行為
---
65
(15)
間接侵害規定の有無
---
66
(16)
実施報告制度の運用状況
---
66
(18)
インドの医薬品特許、
微生物に関する技術専門委員会
---
70
(19)
インド特許制度に関するインド法律事務所の見解
---
71
2−3意匠
(1)
意匠権の及ぶ範囲
---
83
(2)
先願主義の担保状況
---
86
(3)
出願からの登録までの期間(又は
FA
期間)
---
86
(4)
早期・優先審査制度の有無
---
88
(5)
写真、
CG
等による図面提出の可否
---
88
(6)
新規性阻却事由
---
89
(7)
部分意匠制度の有無
---
92
(8)
公開繰延制度の有無
---
93
(9)
異議・審判制度の整備状況
---
93
(10)
故意でない侵害行為
---
94
(11)
先使用権の規定の有無
---
96
2−4商標
(1)
商標権の及ぶ範囲
---
98
(2)
先願主義の担保状況、先使用権の有無
---
98
(3)
出願からの登録までの期間(又は
FA
期間)
--- 100
(4)
周知商標の保護
---
101
(5)
早期審査制度
---
103
(6)
更新時の使用審査
---
104
(7)
更新手続期間
---
104
(8)
異議・審判制度の整備状況
---
106
(9)
商標冒認出願への対抗手段
---
109
(10)
故意でない侵害行為
---
110
3.インドの知的財産制度と条約との整合性
3−1
TRIPS
協定
(
第二部
)
との整合性
---
117
3−2パリ条約との整合性
---
139
3−3
PCT
との整合性
---
155
4.インドにおける模倣被害とエンフォースメントの実態
4−1調査方法
---
163
4−2調査結果
---
163
1.インド知的財産関連法改正について
1−1特許
(1) 1999
年以降の特許法改正経緯
1999
年:
1999
年特許
(
改正
)
法公布。
米国、欧州連合(
EU
)による世界貿易機関(
WTO
)への提訴を受け、医薬
品等の物質特許に関するメールボックス出願
1と排他的販売権
2の規定等を追
加
同年
:
物質特許の導入を含む特許法改正案が議会に提出されたが、
下院解散により廃案。
2002
年
6
月:
2002
年特許
(
改正
)
法公布。
(特許保護期間が出願日から
20
年に改正、物質特許は導入されず。
)
2003
年:特許
(
改正
)
法案が議会に提出されたが、下院解散により廃案。
2004
年
8
月:法案再提出
・物質特許の導入(旧第
5
条廃止)
・用途発明に対する特許付与の可能性(
“mere”
の追加による)
・特許付与前異議申立制度の廃止(狙いは、特許付与前の膠着状態を減少さ
せるため)
→
総選挙の結果、インド人民党の連立政権に代わり、誕生した国民会議派の
連立政権も改正法案を支持したが、議論膠着。
2004
年
12
月
26
日
:
TRIPS
協定履行の期限である
2005
年
1
月
1
日に議会通過が危ぶ
まれたため、改正案を
2004
年特許
(
改正
)
大統領令として布告。
2005
年
1
月
1
日:同大統領令施行(
6
ヶ月間有効)
2005
年
3
月:
2005
年特許
(
改正
)
法が議会を通過。
・物質特許の導入(旧第
5
条廃止)
・用途発明に対する特許付与の可能性を低くする(
“mere”
削除)など、発明
とみなされないものの範囲拡大
・特許付与前異議申立制度の充実、特許付与後異議申立制度の新設
(
特許付
与前の膠着状態より、医薬品企業への配慮を重視
)
など。
2005
年
4
月
5
日:
2005
年特許
(
改正
)
法が大統領承認により成立(
2005
年
1
月
1
日に
遡及して施行)
1 <メールボックス出願> TRIPS協定第27条で「特許の対象」は技術分野で差別されないことが規定され
ているが、TRIPS 協定の発効時に、医薬品及び農業用の化学品の特許による保護を認めていない締約国に対
して、これを認める法制度が構築される(つまり、物質特許が認められる)までの経過措置として、少なくと
も「出願」については受理することを求めている。この出願を「メールボックス出願」、「ブラックボックス出
願」などという。同第27条を満たす法制度が構築され当該メールボックス出願が特許付与された場合に、そ
の出願日及び優先権の主張が可能とされている。(TRIPS協定第70条(8))
2 <排他的販売権> 物質特許が認められるまでの経過措置であり、メールボックス出願について、その対象
となる物質がTRIPS協定加盟国で特許付与されている場合、販売承認を得た日から5年間、又はその物質の
特許が当該国で付与されるか拒絶されるまでの、いずれか短い期間、排他的に販売権を有することができる。
(2) 1999
年特許
(
改正
)
法について
1999
年特許
(
改正
)
法は、
TRIPS
協定第
70
条
(8)
及び
(9)
を遵守するため、メールボッ
クス出願受理のための手段を設けるとともに、排他的販売権の出願と付与を認めること
により、物質特許出願に関する暫定的規定を定めることを主な目的とするものである。
(3) 2002
年特許
(
改正
)
法について
2002
年特許
(
改正
)
法は、依然として物質特許の導入はなかったものの、インドの特許
法をより一層
TRIPS
協定に準拠させるために制定されたものである。法律施行日は、
2003
年
5
月
20
日であり、主な改正内容は以下のとおりである。
① 発明の定義の変更
② 以下のものが発明とみなされないものとして追加された
(i)
植物と動物の全体、又はその一部
(ii)
コンピュータプログラムそのもの、ビジネス方法、数学的方法、又はアルゴリ
ズム
(iii)
伝統的知識
(iv)
集積回路の回路配置
③ 特許期間を出願日又は優先日から
20
年に延長(
2
‐
2(1)
参照)
④ 出願公開制度の導入:出願日又は優先日から
18
ヶ月で出願公開
⑤ 審査請求制度の導入:審査請求期間は出願日から
48
ヶ月以内
⑥ インド居住者の外国出願の制約条項の復活(
1999
年法で一旦削除されていた)
⑦ ボーラー条項の導入
⑧ 強制実施権条項の修正
(4) 2005
年特許
(
改正
)
法について
2005
年特許
(
改正
)
法の主な目的は、物質特許制度の導入と、それに伴う排他的販売権
に関する条項の廃止である。本改正法には、物質特許制度がもたらす医薬品企業へのイ
ンパクトをやわらげるため、用途発明に関する特許付与の制限、特許付与に対する異議
制度を充実するなどの配慮が見られる。
今回の調査にあたり、
ご協力いただいたインド法律事務所の
Vadehra
3氏の見解を下記
に示す。
<
Vadehra
氏からの回答>
「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定
(
TRIPS
協定)
は、インド政府に対し
ても、特許保護の分野に関するいくつかの義務を課しており、それを満たすために
3 Mr. Sharad Vadehra:M. Sc. LLB, Partner, Patent and Trademark Attorney, Kan and Krishme:B-483,
KNH House, Meera Bagh, Paschim Vihare, New Delhi 110063。今回の調査では、同氏のほかMs. Archana
Shanker:Archana Shanker, Senior Partner- Patent, ANAND AND ANAND:Plot No. 17A, Sector 16A,
1970
年特許法を大幅に改正することが必要になった。
TRIPS
協定はそれらの改正を
3段階に分けて行うことを認めるものであった。インドが米国との
WTO
紛争に敗訴
した後、
最初の義務を満たすことを目的として
1999
年特許
(
改正
)
法が制定された。
さ
らに
2
番目の義務を満たすため、
2002
年特許
(
改正
)
法案が作成された。同法案には、
特許の対象となる発明、新たな権利の付与、保護期間の延長、方法特許侵害における
立証責任の所在及び強制実施の条件に係る変更が含まれていた。なお、微生物、医薬
品、農化学品並びに原子力及び植物品種に係る発明に対する保護の導入に関しては
2005
年までの猶予が与えられていた。
1999
年特許
(
改正
)
法案には、
TRIPS
協定の義
務を満たすための規定に加え、現代における技術の変化に適したものとなるよう特許
法を近代化するための規定も含まれていた。
インド人民党政権は、
TRIPS
協定に基づくインドの義務を満たすため、
1999
年3
月の改正法及び
2002
年6月の改正法により特許法の改正を行った。この2回の改正
はさほど大きな議論を巻き起こすものではなかった。というのも、両改正はそれぞれ
1995
年
1
月
1
日及び
2000
年
1
月
1
日に発行する義務を主として履行するためのもの
であったからである
4。
3
回目の改正は、
物質特許制度の導入に係る
TRIPS
協定の義務の履行を目的とする
ものであった。
」
(5) 2005
年特許
(
改正
)
法における主な改正事項
① 第
2
条
(1)(ja)
進歩性(
inventive step
)
改正後の進歩性の定義は、
「現存の知識と比較して技術的進歩を含み若しくは経済的
意義を有するか又は両者を有する発明の特徴であって、当該発明を当該技術の当業者に
とって自明でなくするもの」
となり、
下線の部分が追加されている。
つまり、
「当該技術
の当業者にとって自明でない」だけでなく、
「現存の知識と比較して技術的進歩を含み」
又は「経済的意義を有する」ことが、条件として付加されたことになる。
「現存の知識と比較して技術的進歩を含み」という限定が、従前の「当該技術の当業
者にとって自明でない」に対して、どのような場合により厳しい条件になるかは現時点
では予測できない。
また、
「経済的意義を有する」
ことが、
進歩性の判断基準の1つとして追加されている
のは、米国において「市場における成功」が非自明性の判断基準として挙げられている
のと同様な考え方を採用したとも言える。
なお、
「経済的意義を有する」
ことの定義は現
在のところ示されていない。
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第2条 定義及び解釈 第2条 定義及び解釈
4 TRIPS協定第65条の経過措置により、インド等の開発途上国は1996年1月1日には「内国民待遇」と「最
恵国待遇」(同第3条∼第5条)の適用が義務づけられ、2000年1月1日には、「物質特許の保護」を除くTRIPS
協定の適用、2005年1月1日には、インドのジェネリック医薬品企業に大きな影響を及ぼす「物質特許の保
(1)(ja) 「進歩性」とは、現存の知識と比較して技
術的進歩を含み若しくは経済的意義を有するか又
は両者を有する発明の特徴であって、当該発明を
当該技術の熟練者にとって自明でないものをい
う。
(1)(ja) 「進歩性」とは、発明を、当該技術に熟練
した者にとって自明でない特徴をいう。
② 第
2
条
(1)(ta)
医薬物質
(pharmaceutical substance)
「医薬物質とは、
1
又は
2
以上の進歩性を含む何らかの新たなもの(
entity
)をいう」
として、医薬物質の定義が追加された。
これは、
「医薬物質」
の定義を進歩性によって限定することにより、
エバーグリーン特
許の防止を狙ったものと推察できるが、この条文以外に本特許法において、
「医薬物質」
について言及した条文はない。
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第2条 定義及び解釈
(1)(ta) 「医薬物質」とは、1又は2以上の進歩性
を含む何らかの新規実在物をいう。
−
③ 第
3
条発明でないもの
(d)
への「新規な形態の単なる発見」の追加、
「単なる新規用途
(
mere new use
)
」から「新規用途(
new use
)
」への変更
従前の第
3
条
(d)
に「特性や用途の単なる発見」のほか、
「既知の物質について何らか
の新規な形態の単なる発見であって当該物質の既知の効能の増大にならないもの」が新
たに規定された。
この条項は、特許権利者が物質構造をわずかに変化させることにより、特許保護期間
を長期化させていく、いわゆる「エバーグリーン」を防止するためのものである。物質特
許の導入による、インドの医薬品企業へのインパクトを少しでも軽減するための改正と
言える。
一方では、インド商工省が設置した「インドの医薬品特許、微生物に関する技術専門
家委員 会(
Report of the Technical Expert Group on Patent Law Issues
;議長
Mashelkar
氏)
」
の報告書
5に、
第
3
条
(d)
に対して批判的とも取れる記述がある
(
2-2(18)
参照)
。
<
Shanker
氏からの回答>
「特許法第3条
(d)
は、既知の物質の変形物、スイス型クレーム
6及び第二医薬用途
に対する特許付与を認めないことにより特許のエバーグリーニング(特許期間の不正
5 http://ipindia.nic.in/ipr/patent/mashelkar_committee_report.doc
6 <スイス型クレーム> 欧州特許条約(EPC)において、既に知られた物質について最初に医薬用途を見出
した発明(第一医薬用途発明)は、物の発明として特許保護の対象となる(EPC第54条(5))が、既に医薬
として使われている物質について異なる医薬用途を見出した発明(第二以降の医薬用途発明)は、物の発明と
しては特許されない。欧州特許庁は、第二以降の医薬用途発明を、「疾病X治療用医薬Aの製造のための物質
Bの使用」という特殊な形式(スイス型クレーム)で特許したが、フランスやイギリスなど一部の加盟国にお
いて、判決により無効とされている。(この場合、物質Bは疾病X治療用医薬Aの有効成分である。)なお、
な長期化)
を防ぐことを目的として実質的に変更された。
2005
年改正法により生じた
懸念は、主として医薬品産業に係るものである。たとえば、
Novartis
社に対し提起さ
れた付与前異議申立においては、特許法第3条
(d)
において使用されている「
efficacy
(有効性)
」
という語の解釈はインド特許意匠商標総局長官に委ねられるとされ、
それ
は同異議申立て手続において問題の出願を拒絶する主要な理由のひとつとなった。し
かし、ある医薬物質のひとつの形態が他の形態よりも高い有効性を有するかどうかに
ついての判断を下す機関としてはインド特許意匠商標総局長官よりも医薬品規制当局
の方が適切であるものと思われる。
」
<
Vadehra
氏からの回答>
「特許法第
3
条
(d)
は、特許の恒久化(エバーグリーニング)を禁止するために導入
されたものである。例えば、特許権者がある疾病を治癒する可能性のある新規の酸部
分についての特許を保有し、しばらくしてこの同じ特許権者又はその他の者が同一部
分のエステル誘導体について特許出願を行う場合に、
特許法第
3
条
(d)
により、
エステ
ル誘導体がインドで特許の対象とされるためには新規の酸部分と比して生物学的活動
を高めるものであることが求められる。
酸からエステルを調合することは、当該技術分野の専門家にとっては非常に自明で
あり、かかる誘導体化の方法は、すでに当該技術分野において周知であるため、かか
る誘導体化は進歩性を必要としないものである。
この理由から、
特許法第
3
条により、
エステル誘導体がインドで特許の対象とされるためには新規の酸部分と比して生物学
的活動を高めるものであることが求められる。
」
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第3条 発明でないもの
(d) 既知の物質について何らかの新規な形態の単
なる発見であって当該物質の既知の効用(efficacy)
の増大にならないもの、
又は
既知の物質の新規な特性若しくは(単なる(注))新規
な用途の単なる発見、既知の方法、機械、若しくは
装置の、単なる用途の単なる発見。
ただし、かかる既知の方法が新規な製品を作り出
すことになるか、又は少なくとも1個の新規な反応
物を使用する場合は、この限りでない。
説明−−本号の適用上、既知物質の塩、エステル、
エーテル、多形体、代謝物質、純形態、粒径、異性
体、異性体混合物、錯体、配合物、及び他の誘導体
は、それらが効能に関する特性上実質的に異ならな
い限り、同一物質とみなす。
第3条 発明でないもの
(d) 既知の物質の新規な特性若しくは新規な用途
の単なる発見、既知の方法、機械、若しくは装置の
単なる用途の単なる発見。
ただし、かかる既知の方法が新規な製品を作り出す
ことになるか、又は少なくとも1 個の新規な反応
物を使用する場合は、この限りでない。
<特許のエバーグリーニング(保護長期化)の禁止>(
Vadehra
氏
7)
2004
年特許
(
改正
)
大統領令は、既知の物質の「新たな用途(
new use
)
」という語を
「単なる新たな用途(
mere new use
)
」へと変更することにより特許法第3条
(d)
を改
正した。
「単なる新たな用途」
という語は、
インドにおいてもスイス型クレームを認め
るものであると考えられていたが、その場合、既知の物質の新たな用途が医学上又は
治療上の有用な効果をもたらすときには新用途発明も特許可能となるため、特許医薬
品のエバーグリーニングが生じうることになる。
しかし、メールボックス出願の審査が開始された後も、特許医薬品のエバーグリー
ニングが可能な状態にされたままであれば、それは大きな問題を生じさせる可能性が
高いと見られていた。
医薬品特許のエバーグリーニング戦略
(
「医薬品のライフサイクル
・
マネージメント」
とも呼ばれる)は、新たな薬剤送達システム(
new drug delivery system, NDDS
)や
新たな投薬形態等を通じて基本発明にわずかな改良を加え、かかる非実質的な改良に
対する複数の特許を出願することにより、当該薬物物質の実質的保護期間を
20
年か
ら
40
年に延ばそうとするものである。
しかし、
2005
年特許
(
改正
)
法は、
「単なる新たな用途」を再び「新たな用途」へと
戻すことによりそのようなエバーグリーニングが生じるのを防ぐものとなっている。
さらに現行法では、塩、エステル、エーテル、多形体、代謝産物、純粋な物質
(pure
form)
、粒径、異性体、異性体の混合物、合成物、組み合わせ、および他の派生物も
またそれが「効用面で著しく特性が異なる」場合を除き同一物質とみなされることも
規定されている。
」
④ 第
3
条
発明でないもの:
(k)
ハードウエアと組み合わされたコンピュータプログラム
の削除
2004
年特許
(
改正
)
大統領令では、
「発明とみなされないもの」から「産業におけるコ
ンピュータプログラムソフトウェアの技術的適用及びハードウエアと組み合わされたソ
フトウエア」を除外する規定が追加されたが、主に中小の
IT
企業から「多国籍企業に
よる独占をもたらす」
として反対され、
2005
年特許
(
改正
)
法では再び削除された。
結局、
2002
年特許
(
改正
)
法と同じ「
(k)
数学的若しくはビジネス方法、又はコンピュータプロ
グラムそれ自体若しくはアルゴリズム」が、発明でないものとして規定されている。
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第3条 発明でないもの
(k) 数学的若しくはビジネス方法、又はコンピュー
タプログラムそれ自体若しくはアルゴリズム
(同左)
⑤ 第
5
条の廃止
物質特許の導入
TRIPS
協定に適合させるために、
医薬品等のいわゆる物質特許を認めないとする本条
項が廃止された。また、これに伴い物質特許の導入までの暫定的な措置であった排他的
販売権に関する条文(第
24A
条から第
24F
条)も削除された。
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
(削除) 第5条 製造方法又は工程に限り特許される発明
(1) 次に掲げる発明については、物質そのもののク
レームに対しては特許を付与せず、その製造方法
又は工程のクレームに対しては特許を付与する。
(a) 食料品若しくは医薬品としての使用を意図
し、又は使用することができる物質
(b) 化学的方法によって調製又は製造される物質
(合金、光学用ガラス、半導体、金属間化合物
を含む。)
(2) (1)の規定に拘らず、第2条(1)(l)(v)に基づいて
指定される医薬品を除き、医薬品としての使用を
意図し、又は使用することができる物質自体の発
明についての特許のクレームは、本法の他の規定
を害することなく、第IVA章に規定の方法でする
ことができ、かつ、処理されなければならない。
説明−−本条にいう「化学的方法」は、生物化学
的、生物工学的及び微生物学的方法を含む。
⑥ 第
9
条
完全明細書の提出期限
2005
年特許
(
改正
)
法で、
仮出願
8後の完全明細書提出期限を、
3
ヶ月延長する規定が廃
止され、出願から
12
ヶ月以内に完全明細書を提出しなくてはならないこととなった。
もとより、この条文は優先権出願を対象としたものではないが、従前の規定が「
12
ヶ月に加えて
3
ヶ月の延長を認める」
としていたことにより、
インド以外の国に優先権
出願をする出願人が優先権主張の期限も
15
ヶ月であるかように取り違えをしていた。
この問題を解消し
12
ヶ月以内に優先権出願することを促すために、第
9
条の改正がな
された。
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第9条 仮明細書及び完全明細書
(1) 特許出願(条約出願でなく又は特許協力条約に
基づいてインドを指定する出願でないもの)に仮
明細書を添付したときは、完全明細書を出願日か
ら12ヶ月以内に提出しなければならず、その提出
を怠ったときは、当該出願は、放棄されたものと
みなす。
第9条 仮明細書及び完全明細書
(1) 特許出願(条約出願でないもの)に仮明細書を
添付したときは、完全明細書を出願日から12ヶ月
以内に提出しなければならず、その提出を怠った
ときは、当該出願については、放棄されたものと
みなす。
ただし、完全明細書については、出願日から12
ヶ月経過後であっても完全明細書の提出日以前
に、長官に対してその旨の請求を行い、かつ、所
定の手数料を納付したときは、前記の日から15ヶ
月以内に限り、いつでもこれを提出することがで
きる。
8 <仮出願> インドでは出願に必要なすべての事項が記載された明細書を完全明細書と呼び、それに対して
簡略化された明細書を仮明細書と呼んでいる。仮明細書には、クレームや要約の記載は不要で、発明の名称
と内容等が記載されていればよい。出願人は、仮明細書により特許出願(仮出願)した場合、12 ヶ月以内に、
⑦ 第
11A
条
早期出願公開、出願公開日に遡った権利付与
特許権者の請求により、特許出願の出願日又は優先日から
18
ヶ月を経過する前に当
該特許の公開を可能とする
9改正がされた(第
11A
条
(2)
)
。また、特許付与後は、当該特
許の公開日に遡及して、特許権が付与される改正があった(第
11A
条
(7)
)
。
インドでは、審査請求されても特許公開されない限り、審査は着手されないため、特
許出願人が早期公開を請求し、その後特許付与が認められれば、より早い時期に遡って
特許権が得られることになる。
ただし、メールボックス出願された発明については、特許付与日から特許権の効力が
発することに注意を要する。さらに、その際の特許権行使には以下のような制限がある
(第
11A
条
(7)
)
。
下記の条件の両方を満たす企業に関しては、合理的なロイヤルティの支払いを求める
権利を有するが、当該企業に対しては侵害訴訟を一切提起することができない。
(a)2005
年
1
月
1
日以前に、相当な投資を行っており、当該特許関係製品を生産販売
していたこと。
(b)
特許付与の日に、当該特許により包含された製品を引き続き製造していること。
従って、メールボックス出願に対して特許が付与されても、相手企業によっては侵害
訴訟を提起できないため、排他的な事業戦略をとることができないという問題がある。
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第11A条 出願の公開
(7) 特許出願の公開日以降、当該特許に係る特許付
与の日まで、出願人は当該発明の特許が出願の公
開日に付与されたものとして同等の権利を有す
る。
ただし、出願人は特許が付与されるまでは侵害
手続を提起する権利を有さない。
ただし更に、2005年1月1日前に第5条(2)に
基づいて行われた出願に係る特許権者の権利は、
特許付与の日から生じるものとする。
ただしまた、第5条(2)に基づいてされた出願に
ついて特許が付与された後は、特許所有者は、2005
年1月1日前に大規模な投資を行ったことがあり、
かつ、関係製品を生産販売していた企業であり、
特許付与の日に当該特許により包含された製品を
引き続き製造する企業から合理的なロイヤルティ
を受領する権利を有するのみであり、当該企業に
対しては侵害訴訟を一切提起することができない
ものとする。
−
⑧ 第
11B
条
審査請求期限
・
2002
年
5
月
20
日より前の出願は、
出願日又は優先日から
48
ヶ月のいずれか早い方
9 Vadehra氏によれば、早期公開の出願が、既公開の通常出願より審査が早まるなどの特別な運用はされてい
と
2003
年
5
月
20
日の遅い方
(
2006
年特許規則
24B(1)(i)(v)
、
2002
年特許法第
11B
条
(2)
)
・
2002
年
5
月
20
日以降、
2005
年1月
1
日より前の出願は、出願日又は優先日から
48
ヶ月のいずれか早い方
(
2006
年特許規則
24B(1)(i)(v)
、
2002
年特許法第
11B
条
(1)
)
(メールボックス出願の場合は、出願日又は優先日から
48
ヶ月のいずれか早い方と
2005
年1
2
月
31
日の遅い方)
:
2002
年
5
月
20
日より前の出願も同じ(
2006
年特
許規則
24B(1)(ii) (v)
、
2002
年特許法第
11B
条
(3)
)
・
2005
年1月1日以降、
2006
年
5
月
4
日までの出願は、出願日又は優先日から
36
ヶ
月のいずれか早い方(
2005
年特許規則
24B(1)(i)
)
・
2006
年
5
月
5
日以降の出願は、出願日又は優先日から
48
ヶ月のいずれか早い方
(
2006
年特許規則
24B(1)(i)
)
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第11B条 審査の請求
(1) 如何なる特許出願も、出願人又は他の利害関係
人が所定の期間内に所定の方法により当該審査の
請求をしない限り、審査しないものとする。
(2)[削除]
(3) 2005年1月1日前に第5条(2)に基づいて出願
された特許のクレームに係る出願の場合は、その
審査の請求は、出願人又は他の利害関係人が所定
の方法により所定の期間内にしなければならな
い。
(4) 出願人又は他の利害関係人が(1)又は(3)に規定
の期間内に特許出願の審査の請求をしない場合
は、当該出願は出願人により取り下げられたもの
として取り扱われるものとする。ただし、
(i) 出願人は、自己の行った出願については、所
定の方法により請求して、出願後で特許付与
前にはいつでも、これを取り下げることがで
き、かつ
(ii) 秘密保持の指示が第 35 条に基づいて発せ
られた場合は、審査の請求については、当該秘
密保持の指示取消の日から所定の期間内に、こ
れを行うことができる。
第11B条 審査の請求
(1) 如何なる特許出願も、出願人又は他の利害関係
人が特許の出願日から 48 ヶ月以内に所定の様式
により当該審査の請求をしない限り、審査する必
要がない。
(2) 2002 年特許(改正)法の施行前における出願の
場合は、所定の様式による審査の請求は、出願人
又は他の利害関係人が当該施行日から 12 ヶ月以
内、又は出願日から48ヶ月以内の何れか遅い時ま
でにしなければならない。
(3) 第5条(2)により包含される特許のクレームに
ついての出願の場合は、所定の様式による審査の
請求は、出願人又は他の利害関係人が2004年12
月31日から12ヶ月以内、又は出願日から48ヶ
月以内の何れか遅い時までにしなければならな
い。
(4) 出願人又は他の利害関係人が(1)又は(2)又は
(3)に規定の期間内に特許出願の審査の請求をしな
い場合は、当該出願は出願人により取り下げられ
たものとして取り扱われる。ただし、
(i) 出願人は、自己の行った出願について、出願
後で特許付与前にはいつでも、取り下げること
ができ、かつ
(ii) 秘密保持の指示が第 35 条に基づいて発せ
られた場合は、審査の請求は、当該秘密保持の
指示取消の日から 48 ヶ月以内にすることがで
きる。
⑨ 第
21
条
アクセプタンス期間
特許出願人は、特許意匠商標総局が最初の拒絶理由通知に相当する通知書を発出して
から、決められた期間内に特許出願に対する拒絶理由を解消し、特許付与が可能な状態
にしなければその出願を放棄したとみなされる。
この期間をアクセプタンス期間といい、
2005
年まで短縮の方向にあったが、
2006
年特許規則
(
注
)
では逆に延長された。
・
2002
年特許
(
改正
)
法
:
12
ヶ月(延長不可)
・
2005
年特許
(
改正
)
法(
2004
年特許規則
24B(4)
)
:
6
ヶ月(
3
ヶ月の延長可)
(
2006
年特許規則
24B(4))
:
12
ヶ月)
2006年特許規則 2004年特許規則
規則24B 出願の審査
(4)第 21 条に基づいて出願を特許付与のため整備
する期間は、要件を順守すべき旨の異論の最初の
陳述書が出願人に発せられた日から 12 ヶ月とす
る。
規則24B 出願の審査
(4)(i) 第21条に基づいて出願を特許付与のため整
備する期間は、要件を順守すべき旨の異論の最初
の陳述書が出願人に発せられた日から6ヶ月とす
る。
(ii) 本規則の如何なる規定にも拘らず、(i)に規定の
期間については、(i)に規定の満了前に第1附則に
規定の手数料を添えた出願人のForm 4による請
求に基づいて、出願人の制御を超える状況下では
長官が更に3ヶ月を超えない期間これを延長する
ことができる。
(iii) 2005年1月1日前に審査された出願を特許付
与のため整備する期間については、要件を順守す
べき旨の異論の最初の陳述書が出願人に対して発
せられた日から12ヶ月とする。
(注) 2006年特許規則では、上記のように出願人にとって余裕のある期間への変更を行う一方、インド特許
意匠商標総局内の手続き期間を規定するなどの改正を行い(以下、規則24Bの例を参照)、特許業務の迅速
化への配慮が見られる。
(
例
)
規則
24B
出願の審査
2006年特許規則 2004年特許規則
規則24B(2)
(i)「審査請求がされた出願に関して長官が審査官
に対して、その出願と明細書、その他の文書を付
託するのは、出願公開から1ヵ月後か、審査請求
の日から1ヶ月後のいずれか遅い日以内である。」
(ii) 審査官が第12 条(2)に基づいて報告書を作成
すべき期間は、長官が当該出願を審査官に付託し
た日から通常は1月、ただし、3月を超えないも
のとする。
(iii)長官が審査官の報告書を処理するべき期間は、
長官(the Controller10)がその報告書を受領した
日から、通常は1ヶ月以内とする。
規則24B(3)
最初の審査報告書は、通常審査請求日から6ヶ月
以内、又は公開から6ヶ月以内のいずれか遅い日
までに出願人又はその代理人に送付されなければ
ならない
規則24B(2)
(i) (1)に基づいてされた特許出願の審査の請求は、
請求が提出された順に取り上げられ審査されるも
のとする。
(ii) 審査官が第 12 条(2)に基づいて報告書を作成
すべき期間は、長官が当該出願を審査官に付託し
た日から通常は1月、ただし、3月を超えないも
のとする。
規則24B (3)
最初の審査報告書は、願書及び明細書と共に、出
願人又は出願人の授権した代理人に対して送付し
なければならない。他の利害関係人が審査の請求
をした場合は、当該審査についての通知は、当該
利害関係人に対して送付することができる。
規則では期間が設けられたものの実際の運用については以下代理人からの回答によれ
ば遅延が見られるようである。
10 ここでthe Controllerは、the General Controller of Patents, Designs and Trade Marks であり、その権
限を各インド特許意匠商標総局のDeputy Controller of Patents(コルカタ、ニューデリー)、 Joint Controller
<
Vadehra
氏からの回答>
「上記、
規則
24B(3)
の規定に関しては、
審査請求日から
1
年以上経過してから、最
初の審査報告書が代理人に届いているのが実態である。
」
⑩ 第
25
条
異議申立
改正前は、特許公告後
4
ヶ月の間、利害関係人に異議申立を認めていたが、本改正に
より特許公告制度を廃止し、出願公開から特許付与までの間、何人でも異議を申立てら
れるよう改正された(第
25
条
(1)
)
。さらに、特許付与後
1
年間、利害関係人は異議申立
が可能となった(第
25
条
(2)
)
。
この条項に現れている異議申立機会の新設により、特許付与前と付与後のいずれの時
点においても、新規性・進歩性等の観点から異議を申し立てることが可能となり、特許
権を取得することを防ぐ機会が増加した。このことはインドのジェネリック医薬品企業
の保護を目的としていると解釈できる。
<
Vadehra
氏からの回答>
「
1970
年以前の物質特許体制(筆者注:物質特許を認めていた時代)
において、
研
究開発活動は主として外国企業によりなされていたため、インド企業にとって不利な
状況であった。
このため、
外国企業の発展を招くこととなった。
1970
年以降の方法特
許体制(筆者注:物質特許を認めない時代)は、インド企業による特許製品のリバー
スエンジニアリングとその安価な価格での提供を促すものとなった。特に、ジェネリ
ック医薬品企業がその主たる受益者であった。
2005
年から再導入される物質特許体制
の下においても、ジェネリック医薬品企業の利益を守るため、本条にはジェネリック
医薬品企業に対し豊富な保護を提供しその事業継続を可能とすることを目的とした改
正が加えられた。
」
⑪ 第
31
条
新規性喪失の例外規定
グレースピリオドが、出願日から従来の
6
ヶ月以内から
12
ヶ月以内に改正された。
<
Vadehra
氏からの回答>
「この改正は、発明者に新規性喪失の懸念を抱くことなく出願をするために十分な
時間を与えるためになされたものである。
」
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第31条 公共の展示等による先発明
(中略)
ただし、前記は、当該特許出願が、真正かつ最
初の発明者又は当該発明者から権原を取得した者
によって、当該博覧会の開催又は場合に応じて当
該論文の発表若しくは公表の後 12 ヶ月以内にさ
れた場合に限る。
第31条 公共の展示等による先発明
(中略)
ただし、前記は、当該特許出願が、真正かつ最
初の発明者又は当該発明者から権原を取得した者
によって、当該博覧会の開催又は場合に応じて当
該論文の発表若しくは公表の後6ヶ月以内にされ
⑫ 第
39
条
インド居住者のインドへの先行出願
インド国内の居住者が外国出願をするには、事前にインド特許意匠商標総局長官の許
可書が必要。ただし以下の
(a)
、
(b)
を満たす場合、許可書は不要。
(a)
国内出願後
6
週間が経過したとき
(b)
長官より当該出願が国防目的であるとの理由に基づく情報開示を禁止する指示を
受けていないとき
2002
年特許
(
改正
)
法第
39
条では、
「いかなる者」もインド以外の国へ特許出願する
6
週間前に、インドへの特許出願をするか、インド特許意匠商標総局の許可を得なければ
ならなかった。それが、
「インド国内の居住者」に限定された。これは、
「いかなる者」
ではインド以外の居住者も必ず、最初にインドに出願しなければならないという不合理
性を修正したものと思われる。
なお、
本条は、
一旦
1999
年改正で削除され
2002
年改正
で復活したものである。
日本企業としては、インド企業との共同開発等を行った結果生み出された発明を特許
出願する際に注意をしなければならない。なお、本条に関する現地代理人の見解は以下
のとおりである。
<
Vadehra
氏からの回答>
「本条の狙いとすることは、インドの居住者が原子力エネルギーと防衛に関する発
明をインド国外に出願することを防ぐためであり、インドの国家安全保障の確保が目
的である。
」
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第 39 条 居住者に対する事前許可なしのインド
国外の特許出願の禁止
(1) インドに居住する何人も、所定の方法により申
請し長官により又は長官の代理として交付された
許可書での権限による以外は、発明につきインド
国外で特許付与の出願をし又はさせてはならな
い。ただし、次の場合はこの限りでない。
(a) 同一発明についての特許出願が、インド国
外における出願の6週間以上前にインドにおい
てされていた場合、及び
(b) インドにおける出願に関して第 35 条(1)に
基づく指示が一切発せられておらず又は当該指
示が全て取り消されている場合
(2) 長官は所定の期間内に各当該出願を処理しな
ければならない。
ただし、当該発明が国防目的又は原子力に関連
するときは、長官は中央政府の事前承認なしに許
可を与えてはならない。
(3) 本条は、保護を求める出願がインド国外居住者
によりインド以外の国において最初に出願された
発明に関しては、適用しない。
第 39 条 一定の状況下での国防目的等に関連す
る特許の出願禁止
(1) 何人も、長官により又は長官に代わって交付さ
れた許可書での権限による以外は、国防目的又は
原子力に関連する発明につきインド国外で特許付
与の出願をし又はさせてはならない。ただし、次
の場合はこの限りでない。
(a) 同一発明についての特許出願が、インド国
外における出願の6週間以上前にインドにおい
てされていた場合、及び
(b) インドにおける出願に関して第 35 条(1)に
基づく指示が一切発せられておらず又は当該指
示がすべて取り消されている場合
(2) 長官は、中央政府の事前承認なしには何人に対
してもインド国外で出願する許可書を交付しては
ならない。
(3) 本条は、保護を求める出願がインド国外居住者
によりインド以外の国において最初に出願された
⑬
第
92A
条
一定の例外状況下における特許医薬品の輸出に関する強制ライセンス
本条項の追加により、インドにおいては医薬品の製造能力が不十分であるか又は製造
能力を一切有さない国向けの特許医薬品の製造及び輸出に対する強制実施権の付与が可
能となった。ただし、当該国が強制実施権を許諾しているか、又は当該国が告示その他
によりインドからの当該特許医薬品輸入を許可している場合に限る。
これは、
TRIPS
協定において強制実施権にかかる製品の供給は自国内に限定されてい
る条項があるため、医薬品の製造能力がない国に対しては強制実施権発動の意味がない
ことが国際的に議論されてきたが、
2003
年
8
月
30
日の
TRIPS
理事会において自国外
への供給を認める採択
11がなされたことに対応している。
なお、
第
92A
条は
2004
年特許
(
改正
)
大統領令で追加されたもので、
輸出先である
「当
該国が強制実施権を許諾」している場合に限定していたところ、
2005
年特許
(
改正
)
法で
は、
輸出先の国に強制実施権の制度が存在しないことを配慮し、
「当該国が告示その他に
よりインドからの当該特許医薬品輸入を許可している場合」も追加している。
これにより、インドの医薬品企業が引き続きジェネリック医薬品を製造し合法的に発
展途上国等に提供できるスキームができたことになる。
2005年特許(改正)法 2004年特許(改正)大統領令
第92A条 一定の例外状況下における特許医薬品
の輸出に対する強制ライセンス
(1) 公衆衛生問題に対応するため関係製品の医薬
品業界において製造能力が不十分であるか又は製
造能力を一切有さない国向けの特許医薬品の製造
及び輸出に対する強制ライセンスは利用可能であ
る。ただし、当該国が強制ライセンスを許諾して
いるか又は当該国が告示その他によりインドから
の当該特許医薬品輸入を許可していることを条件
とする。
(2) 長官は、所定の方法による申請を受領したとき
は、自己が規定し、かつ、公開した国向けの諸条
件に基づく専ら関係医薬品の製造及び輸出のみに
ついての強制ライセンスを許諾する。
(3) (1)及び(2)の規定は、強制ライセンスに基づい
て製造された医薬品が本法の他の規定に基づいて
輸出できる程度を害さない。
説明−−本条の適用上、「医薬品」とは、公衆衛生
問題に対応するため必要な医薬品業界の何らかの
特許製品又は特許方法により製造された製品をい
い、それらの製造に必要な成分及びそれらの使用
に必要な臨床キットを含む。
第92A条 一定の例外状況下における特許医薬品
の輸出に対する強制ライセンス
(1) 公衆衛生問題に対応するため関係製品の医薬
品業界において製造能力が不十分であるか又は製
造能力を一切有さない国向けの特許医薬品の製造
及び輸出に対する強制ライセンスは利用可能であ
る。ただし、当該国が強制ライセンスを許諾して
いることを条件とする。
(2) 長官は、所定の方法による申請を受領したとき
は、自己が規定し、かつ、公開した国向けの諸条
件に基づく専ら関係医薬品の製造及び輸出のみに
ついての強制ライセンスを許諾する。
(3) (1)及び(2)の規定は、強制ライセンスに基づい
て製造された医薬品が本法の他の規定に基づいて
輸出できる程度を害さない。
説明−−本条の適用上、「医薬品」とは、公衆衛生
問題に対応するため必要な医薬品業界の何らかの
特許製品又は特許方法により製造された製品をい
い、それらの製造に必要な成分及びそれらの使用
に必要な臨床キットを含む。
11 TRIPS協定第31条(f)の「主として… (中略)… 加盟国の国内市場への供給のために許諾される。」という
規定により、製造能力が不十分な国へ医薬品を提供する障害となっていたが、TRIPS理事会(2003年8月30
日)の採択により一定の条件下で第31条(f)の履行義務が免除された。その後、2005年12月6日にはこれを
TRIPS協定に反映する決定がなされている。ただし、批准国数が満たされていないため、TRIPS協定は未改
⑭
第
107A
条
侵害とみなされない一定の行為
(a)
規制当局から必要な許可を得るための行為
侵害とみなされない一定の行為として、
「関連する法律に基づいて必要とされる開
発、及び情報の提出に係る使用のためにのみ特許発明を
“
製造、構築、使用、販売
”
す
る行為」に加えて、
「
“
輸入
”
する行為」が追加された。
つまりこの改定により、医薬品特許が期限切れになった後すぐにジェネリック医薬
品の発売を行えるよう、特許期間中であってもジェネリック医薬品企業が規制当局か
ら必要な許可を取得するための行為として特許発明の「輸入」も認められるようにな
った。
なお、
Vadehra
氏からの回答では、
「条文中の「製造
(making)
」は化学物質の生産に
相当し、「構築
(constructing)
」は機器の生産に相当する」とのことである。
(b)
特許製品の並行輸入
従前は、
並行輸入を行うには「特許権者による製品の販売・流通の許可」
が必要をさ
れていたが、
「
“
法律
”
によって正式に製品の販売・流通が許可されている者からの輸入
は侵害とみなされない」と改定された。ここで
“
法律
”
が、インド国内の法律を意味する
のか、
インド以外の国の法律を意味するのか、
現在のところ定まった解釈は存在しない
が、後者であった場合、インドの企業は生産拠点を外国に移し、その国の
“
法律
”
を遵守
した上でインドに輸入するという行為によって特許を回避することを懸念する論文
12も出されている。
2005年特許(改正)法 2002年特許(改正)法
第107A条 侵害とみなされない一定の行為
本法の適用上、
(a) 何らかの製品の製造、構築、使用、販売又は輸
入を規制する法律であってインド又はインド以外
の国において現に有効なものに基づいて必要とさ
れる開発及び情報の提出に合理的に係る使用のた
めのみに特許発明を製造、構築、使用、販売又は
輸入する行為、及び
(b) 当該製品を製造及び販売又は頒布することを
法律に基づいて適法に許可された者からの何人か
による特許製品の輸入については、特許権の侵害
とはみなされない。
第107A条 侵害とみなされない特定行為
本法の適用上、
(a) 何らかの製品の製造、構築、使用、又は販売を
規制する法律であってインド又はインド以外の国
において現に有効なものに基づいて必要とされる
開発及び情報の提出に合理的に係る使用のための
みに特許発明を製造、構築、使用、又は販売する
行為、及び
(b) 特許権者により当該製品を販売又は頒布する
ことを適法に許可された者からの何人かによる特
許製品の輸入については、特許権の侵害とはみな
さない。
12 「A Confusing Patent Law for India From A Correspondent」EPW Commentary April 16, 2005:
Shamnad Basheer(オックスフォード知的財産研究センター)、「インド2005年特許(改正)法が国内外に与え
る影響」(知財研フォーラムVol.62 p44, Mrinalini Kochupillai(フランクリン・ピアース・ロー・センター)、「イ